久米vs巨大妖怪ショーン・ベン

Ryo-hei2005-08-07

 いやいや、五味隆典は強いねー。今回は判定勝ちであるものの、終始五味ペース。フィニッシュを決めさせないところはさすがシュート・ボクセ・アカデミー。でも、グランプリまでに詰めに磨きをかける必要性を再認できてよかったんやないかな?シウバを引きずり出すのも夢ではない。がまだす、日本軽量級人。しかし、ボクシングにせよ日本人は重量級ではあまり結果を出せないなー。武蔵はK−1で頑張ってるものの、人気・選手層はプライドに持っていかれちゃってるし。頑張れ、高坂、藤田、小川!藤田、小川はプライドにも、もっと出て欲しいなー。こう見ると日本重量級陣を支えているのはプロレス。プロレスラーはホントに強いんです!自信を持って僕はここに叫びます。
 と、まぁ格闘好きな人しかわからず、見てる大多数にひかれちゃう(上田のHR/HMネタ並に)ような出だしですが、久しぶりどうも、僕です。上田のお熱なHR/HMネタも嫌いじゃないです。共に突っ走ろうぜ、上田!と言いつつ、一人で上田を走らせちゃう、Sな僕。今日は一部に好評”久米vs巨大何某”モノを久々に書こうと、キーボードを走らせる次第でございます。読むか否かはあなた次第。小ネタも充分散りばめてあります。どうぞ、流し読んでござい。
 
 本日も相も変らず夏。いつもは、蝉の文字通り命を削りながらの叫びを尻目にクーラーの効いた自室でうとうと昼寝に精を出す久米も、レポート提出を明日に控えた今日ばかりは、熱に犯されゆらゆら煮立つアスファルトの上を、自転車でアスファルトと共に揺れながら学校への旅路を進まねばならなかった。途中で買ったジンジャエールもアイエドに着く頃にはじんじゃえーるになっていた。
 今宵は花火大会ときいていた。課題を終え、自分の自転車を探している頃にはもう花火が夜空を賑わせていた。菊先、牡丹、錦先、銀波先。久米のハンドルは自ずとその花火の打ち上げられている方向へと向いていて、それを遮るものもない。暇つぶし程度に久米はタイヤを転がす。途中、多くのカップルを追い越した。
 およそ花火大会会場に来ているほとんどの若人は、その若さゆえ年寄りに嫌われるような部類のヒューマノイドだ。老人にとって、若さはそれだけで罪であり、自分の栄光を輝かせる為の格好の研磨剤である。磨いて磨いて自分の過去の誇張に励み、尊ばれる事を代償に得た”深紅の丸い自己満の果実”は、その手軽さゆえ多くの者を惹きつけ、彼らに”歪み”を与える。その”歪み”によってできる、”心の皺(しわ)”は老人という階級を決定づけるバッジのようなモノでもある。”最近の若者は・・・”で始まる小言は何千年前から、この世界の空気を響かせていたそうな。歴代の老人の小言が正しいとなると、弥生人はたいそう礼儀作法に満ち満ちた輩ばっかだったのだろう。それ故、寿命が短かったのかもしれない。
 ホントは一人で来るつもりはなかった。”小さな誤解”に載った”大きな誤解”によって、久米の恋は脆くもつぶれ、淡く儚い薫りとカケラを残して、久米の手からサラサラと音も立てずに滑り落ちた。久米はそれを引き止める術を持たなかった。しかしながら、”それをそれと受け止められた自分”に驚いた。その”自分”に、”苛立つ自分”がそのうち産まれるのかと思うと、地球の重力を感じずにはいられなかった。
 花火を観たのか観なかったのか、もしくは10分だけ見たのかわからない若人達が引き上げていくのと同時に久米も引き上げた。帰りの道は蒸し暑かった。アスファルトが、今のうちだとばかりに蒸気を吐き出しているようだった。きっとアスファルトも生きているのだ。久米はそんな妄想も鵜呑みできる程、疲労困憊していた。久米は尿意を催し、多くの人がそうするように近くのパチンコ屋で用を足した。
 久米は初めてパチンコ屋に入った。なんだか賑やかで、異様に冷えていて、”金欲に飲まれたヒューマノイド歓喜と憎悪に満ちた空気”をしかとそこに認めた。それに耐え切れず、用を足して足早にトイレから駆け出た瞬間だった。大きな液体の塊が、トイレとカウンターを隔てている壁を突き破り、尾を引きながら台を倒しながら這っていった。
 ”例のアレだ。”久米は慣れたように、その”奇想天外摩訶不思議な現象”を認めた。ここ何年か続いている、”巨大何某モノ”であって、自分は戦わせられるのだと。”それをそれと受け止められた自分”に驚いた。結局勝つのだし、やってもいいか。そう思いつつ、巨大な液体の塊の跡を追い階段を下った。頑張ってちょうだい。
 1階はひどい状況だ。巨大な液体の塊に倒された台から飛び出したパチンコ玉が、且つは山となり、且つはテムジン川のように店外に噴出していた。しかも臭い。久米は容易にわかった。あいつは小便を媒体としている。そして多数のヒューマノイドの小便が合わさると、かくも形容しがたい臭いになることを知った。小便と玉によりかなり歩きづらいが、一歩一歩確実に小便の塊に近づく。
 背後から襲い飛び掛かるも相手は腐っても液体。久米は顔面から小便に突っ込み、その”高い鼻”を地面に打ちつけた。ゆっくり鼻をさすりながら久米は立ち上がり、帰ることに決めた。だって、液体なんだもん。無理じゃねーかよ。仕方ねーだろ。そのうち誰かがどうにかしてくれる。しかも幸いにも、さっきの恥ずかしい失態は誰にも見られていない。満足して場を去ろうとする久米の前に誰かが立ちふさがった。
 上田だった。”そう簡単に諦めるなって!”何故か異様に熱い上田に、これ以上何かグチグチ言われるのも酌なので、久米は延々と語る上田を尻目に帰ろうとした。すると、上田が小便の塊に向かって駆け出した。”やめとけって”久米の忠告も空しく、案の定上田も背後から襲い飛び掛かった。そして、その”低い鼻”を地面に打ちつけた。だから、やめとけって言ったのにと久米は思うも、上田はゆっくり鼻をさすりながら立ち上がるや否やまた襲い飛び掛かった。なんだコイツは!?無駄だとわかってもなお、襲い飛び掛かる上田の姿に疑問を感じずにはいられなかった。なおも飛び掛り続ける上田。
 ”やめろって”もはや鼻血だらけの上田を久米は掴みかかる。”無駄だってわかったら諦めるのかよ!”久米は言葉を失った。パチンコのホールに”水”を打ったように静かで、もの凄く色んな意味で”クサイ”空気が流れる。その空気はさっきの”金欲に飲まれたヒューマノイド歓喜と憎悪に満ちた空気”を掻き消した。雑草魂。逆境にくじけるな。彼以上にその言葉が似合う男が果たしてこの地球上にいるのだろうか?久米は篤く感動した。”・・・お前一人にカッコイイ事させるかよ”久米は上田のまやかしに、ものも見事に飲み込まれ、小便に襲い飛び掛かった。
 顔面を地面に打ち続ける二人の漢。無駄が無駄のままで終わっていいのか?それを必死に体現し続ける馬鹿二人。鼻血をぶちまけ続ける夢追い人二人。そんな彼らにプロレス魂を感じずにはいられない。そんな二人に根負けしていくように、小便の塊、”巨大妖怪ショ−ン・ベン”は体を縮めていく。だんだんと体が飛沫となり小さくなっていっているのだ。ある一定の大きさを下回ると、妖怪ショーン・ベンは満足げに弾けて散った。
 無駄が無駄でなくなった瞬間。上田と熱い握手を交わす久米。もはや言葉はいらぬ。手を通しての意思疎通が可能になったヒトトキであった。その興奮と言えば、何事のも変えがたいものである。再び自転車で帰る久米に、アスファルトが後押しをしているように、帰りの家路の所要時間は短かった。
 家でシャワーを浴びる久米。鼻血と小便を全て洗い流す。小便の臭いが消えるまで体をこする。今の彼の頭に他に方法があったのではないか?という疑問は微塵も浮かばなかった。”今日はどんな日だった?”と誰かにきかれたら、久米は”充実した1日だった”と答えるに違いない。シャワー室から出て、頭にタオルを羽織った久米の鼻をつく”匂い”は小便でなく、あの淡く儚い”匂い”。わかってもらえるまで話をしよう。たとひ、わかってくれずとも、一度自分が好きになった女。このままでは思い出と成り果てても、後悔するであろう。コーヒーを片手に携帯のメモリーを開く久米の後姿は、一種の成長的なものを”匂わせていた”。